ウルトラマンメビウスのファンサイト・メビウスベルト【ウルトラマンメビウス 第41話「思い出の先生」マニア考察】

ウルトラマンメビウス 第41話「思い出の先生」考察ハードバージョン

監督:佐野智樹、特技監督:鈴木健二、脚本:川上英幸

メビウスマニアライター T2-0

ある晴れた朝、一人の教師が男子生徒の家を訪れていた。教師の名は塚本(吉見一豊)。 彼は、登校拒否の生徒を家まで迎えに来たのだった。学校に行くことを決めかねている生徒に、 塚本は逆立ちをして語りかけた。

「こうしてると地球を支えてる気分になるんだ」と。実は塚本も中学時代に登校拒否の経験があった。 そしてその時、塚本の担任は彼を励ますために逆立ちをして見せたのだ。逆立ちの後、塚本は言った。 「少し勇気を出せばいいことなんだ」。

学校に到着した生徒は、クラスメートに迎えられて教室へと向かった。その中学校の校門には「 桜ヶ丘中学校」の校名が掲げられていた。

一方、宇宙空間では高速で地球に接近する円盤型の飛行体と、それを追跡する何者かの姿があった。 追跡者からの一撃を受けた飛行体は太平洋上の孤島に落下した。 直立形態となり着地した飛行体は円盤生物ロベルガー二世! そして島に降り立った追跡者…、それはウルトラマン80であった!!

孤島に展開される80とロベルガーの戦い。しかし80は、ロベルガーの放つ光弾に苦戦する。 そこにメビウスが参戦!二人のウルトラマンはロベルガーを圧倒していく! そしてロベルガーは、80のサクシウム光線とメビウスのメビュームシュートにより粉砕されるのだった。

フェニックスネストでは、隊員たちが「マイナスエネルギー」について語り合っていた。 人間の放つ負の波動であるマイナスエネルギー、ドキュメントUGMに残された記録によれば、 それは邪悪な怪獣を呼び寄せる可能性を持っていた。そして今、桜ヶ丘中学で、微量のマイナスエネルギーが計測されつつあった。

その桜ヶ丘中学は廃校となることが決まっていた。学校の敷地に立ち入り、 廃校を惜しむ会話をしていた二人の男に話しかける塚本。そして三人は歓喜の声を上げる。 それは塚本の中学時代の同級生、落語(金と銀)とスーパー(浅木信幸)だったのだ。

三人は教室に入り、中学時代の思い出を語り、1年E組の担任であった矢的猛を懐かしんだ。 矢的猛は彼らにとって印象深い教師であった。しかし矢的は、ある日突然学校を去ってしまったのである。 塚本は、矢的がウルトラマン80だったと確信していた。しかし落語とスーパーはそれを信じられない様子である。 そんな会話の後、彼らはクラス会の開催を計画した。会場はここ、桜ヶ丘中学だ。

そこに、マイナスエネルギーの調査中であったミライ(五十嵐隼士)が通りかかった。塚本は、 ミライに矢的猛の消息を尋ねた。矢的がUGMの隊員であったことを知っていた塚本は、 GUYSなら矢的の行方を知っているのではないかと考えたのだ。

星空の下、ミライは80に呼びかけた。「桜ヶ丘中学で開催されるクラス会に、 矢的猛先生として出席してあげてください」。しかし80は応えた。「それはできない」と。 かつてマイナスエネルギーの調査のため地球を訪れた80は、人間の持つ可能性を知った。

しかし人間は、その可能性を誤ったほうに使いかねない弱さも持っていた。 その弱さがマイナスエネルギーとなることを知った80は、中学校の教師となる道を選んだ。 80は、教育を通じて人間のマイナスエネルギーの発生を抑えようと考えたのだ。

しかし、怪獣出現の頻度は増していった。UGM隊員でもあった矢的は、怪獣出現に対処するため、 教員の職を辞せざるを得なかったのだ。 「矢的猛が謝っていたと伝えてほしい」、80は、生徒たちへの伝言をミライに頼むのだった。

ミライは、80からの言葉を伝えるべく学校に足を運んだ。そこには、 ウルトラマン80の出現を報じる新聞を手にした落語と塚本がいた。80の地球来訪を喜ぶ二人は、 空に向かって呼びかけた。「矢的先生、明日のクラス会に出席してください!」 そんな彼らに80からの言葉を伝えることは、ミライには到底できなかった。

ミライから相談を受けたサコミズ(田中実)は「君が何かしなくてはいけないってことじゃない」 と前置きしながら、人間にとっての思い出の大切さを語った。「思い出が何もないことが、 人間にとって一番悲しいことかな」と。

そして、クラス会の日がやってきた。会場は懐かしい校舎の屋上だ。 再会を喜び合う1年E組の元生徒たち。そこには、ファッション(奏谷ひろみ)、博士(中村良平)、 真一(紀伊修平)ほか、矢的猛の多くの教え子が集っていた。しかし、そこに矢的先生の姿はなかった。 その時、中学校のマイナスエネルギー反応が急激に上昇!街に硫酸怪獣ホーが出現した!!

ミライはメビウスに変身!メビウスはホーに挑むが、ホーは強敵であった。メビウスを組み敷き、 その顔面を殴打するホー。その目からこぼれる硫酸の涙がメビウスの身体を焦がす!

その時!そこにウルトラマン80が飛来した!!その姿に矢的の教え子たちは叫んだ。「俺たちのウルトラマンだ!」 80の出現と共に、ホーは暴れるのをやめた。ホーに向けて放たれる80のバックルビーム。 それを受けて消滅するホーの顔は穏やかに見えた。

「先生!」戦いを終えた80に呼びかける元生徒たち。「先生に憧れて、僕は教師になりました!」、 そう叫ぶ塚本に続き、次々に80に現況を報告する教え子たち。「皆、先生には感謝しています!」、 その声とともに広げられた横断幕には、こう書かれていた。「矢的先生、思い出をありがとう」 そして、教え子たちにより斉唱される「仰げば尊し」。それを聴き終えた80は、大空に飛び去るのだった。

校庭から、ミライは屋上を見上げていた。その傍らに矢的猛(長谷川初範)が姿を見せた。 「教え子たちに、逆に教えられてしまった」。猛は、大切な生徒たちと再会するために校舎へと向かう猛を、 教え子たちの歓声と笑顔が迎えるのだった。

ウルトラマニア考察

ウルトラマンメビウス第41話「思い出の先生」は、テレビシリーズ「ウルトラマン80」で完結し得なかった 「中学校教師・矢的猛」の物語を最高の形で締めくくってくれました。

「ウルトラマン80」というシリーズは、ウルトラシリーズの中でも最も大きな路線変更が行われた作品でした。その路線変更は、番組最大の特色であり新機軸であった「ウルトラマン先生」の設定が、シリーズ途中で消滅したことです。 第二期以降のウルトラシリーズでは、シリーズ途中での路線変更が数回見られます。

「帰ってきたウルトラマン」における坂田兄弟の死。「ウルトラマンA」におけるヤプールの敗退、 南夕子との別離。そして「ウルトラマンレオ」におけるMAC全滅…。 しかし、ウルトラマン80における路線変更は、過去の路線変更とは異なるものでした。と言うのも、 「80」以前の路線変更は、その契機となる出来事がしっかり描かれていたのです。

しかしウルトラマン80では、第12話「美しい転校生」を最後に矢的猛の教員としての描写は見られなくなり、 それに対する説明は特になされなかったのです。 今回のエピソードは、そのように曖昧な位置づけとなっていた「教師・矢的猛」のその後を描いたものとなりました。

このような後日談エピソードを制作する際にハードルとなること、 それは、全てのファンを納得させる内容に仕上げることが非常に困難であるということでしょう。

ファンは、好きな作品について、劇中で語られなかった部分をあれこれ想像します。一方、 劇中で明示された出来事については多少理不尽なものであっても、ある程度飲み下すことが可能です。

しかし一旦終了した作品については、その後提示された付加事項は、 いかに整合性の取れたものであっても「後付け設定」として受け止められやすくなります。 そして後日談として、どのような「その後」が提示されようとも、それぞれのファンが自分の思い描いた 「その後」と異なっていれば、そのファンにとっては違和感が生まれます。

思い入れのあるファンを多く持つシリーズであれば、それだけ後日談を作ることは難しいといえます。 実際、「80」でも「13話以降、矢的猛は教員を辞めたのか?」については、様々な解釈が可能でした。 今回の「思い出の先生」では、それに明確な回答が示されていますが、それはとても勇気の要ることだったと思います。 今回のエピソードでは「矢的猛が教員を辞めたこと」のほか、「80が教員となった経緯」や 「生徒たちのその後」が提示されています。

そしてそれらは極めて説得力のあるものでした。そして、 これらの描写に不満を感じた80ファンはほとんどいなかったのではないでしょうか。難しい課題に挑み、 それをクリアしたスタッフの勇気を称えると共に、「教師編」をこんなにも素晴らしい形で完結させてくれたことに 感謝したいと思います。

その説得力は、このエピソードが「80・教師編」の設定をしっかり踏まえて描かれていたことから生まれたと考えます。 今回のエピソードでは、「80・教師編」の設定や劇中での出来事が実に巧く語られていました。

それは旧作との地続き感を高めるとともに、旧作の「80」を見ていない視聴者にとっても、 このエピソードを分かりやすいものとすることに成功しています。

「矢的猛が、中学の教員とUGM隊員を兼務していたこと」「猛がUGM隊員であることは、 学校の皆には秘密であったこと」は、ウルトラファンにとっては常識かも知れませんが、 テレビの前の子どもたちや、一般の視聴者にとっては、これらがきちんと説明され、 「マイナスエネルギー」の定義がしっかり示されていたことは、このエピソードを理解してもらううえで、 とても大切なことだったと思います。

そのような、スタッフが「80」に向ける敬意と、それに基づく丁寧さがあったからこそ、 今回のエピソードは多くの人の心に響いたのだと感じています。 旧作の設定を大切にしているのは「メビウス」というシリーズの特徴ですが、 今回の様々な描写は、特に「80」ファンにとって嬉しいことだったはずです。

今回のエピソードには、旧作「80」の矢的猛の生徒たち、「落語」「スーパー」「博士」「ファッション」 「真一」「塚本」が登場しています。塚本と真一については、後に記していますのでご一読ください。

さて、「80はちゃんと教員免許を持っているのだろうか?」というのも、古いファンが時々話題にすることでした。 これについては今回、80が「勉強を重ね、中学校の教師となった」と語っていることで 回答が示されたものと僕は理解しています。

おそらく80は、レオが地球を去った直後ぐらいから地球に滞在し、大学に通い教員免許を修得したのでしょう。 その行為は矢的猛のキャラクターを考えれば充分理解できるものですし、その経験は、 80が地球人を理解するために役に立ったはずです。

このセリフに前後して語られる、80がクラス会に出席することを拒んだ言葉の裏には、UGMを選び、 教師を辞めてしまったことへの負い目が感じられました。そして「UGMを選び教師を捨てた」 ことへの無念さは80の気持ちであると同時に、製作者の気持ちでもあったのではないでしょうか。

そのことが27年の時を経てようやく決着を見たこと、「ウルトラ」を見て育った世代が、 旧作を損なうことなくこのような形で補完してみせたことには本当に感激させられます。

今回のエピソードは素晴らしい点が多いのですが、もう一つ唸らされたのは、ホーの出現理由でした。 「壊される校舎の悲しみ」ではなく、「矢的先生と生徒たちを会わせてやりたいため」 に出現したという理由付けの素晴らしさ。 涙をこぼしながらメビウスを殴打するその姿からは「お前じゃない、矢的先生を連れて来い!」 との叫びが聞こえるようです。

カットバックされる時間割や廊下の水道のイメージも印象的なカットですし、 ホーの消滅時の顔が穏やかな表情に見えるのも素晴らしいです。 物言わぬ着ぐるみにこれだけの演技をさせ、視聴者の想像力を喚起させる演出に敬意を表したいです。

過去のウルトラシリーズとのリンクポイント

さて、今回の作品で旧作「ウルトラマン80」との関連が強いのは以下の部分です。
@第1話「ウルトラマン先生」で描かれる「5年ぶりに地球に出現した怪獣」であるクレッセント とウルトラマン80の戦い。そして、桜ヶ丘中学の生徒たちは校舎のベランダから80に声援を送ります。

今回、猛の教え子たちが校舎から80の戦いを見守る様は、これを踏襲した描写のはずです。 80の地球での初陣を目撃した1年E組の生徒たちは、今回もあの時と同じ校舎から今回の戦いを見ていたのです。 なんだか感慨深いと思いませんか。

A第2話「先生の秘密」に登場した登校拒否の生徒、塚本幸夫の成長した姿が今回登場する教員・塚本先生です。 猛は、塚本と一緒に登校するため彼の家を訪ねるのですが、塚本には逃げられてしまい、 それが原因で猛は学校に遅刻してしまいます。

塚本が男子生徒に見せた逆立ちは、この通学途中に猛が塚本に見せたものでした。 その後、怪獣ギコギラーの襲撃から身を挺して塚本を守った猛に、塚本は心からの信頼を寄せます。 そして出現したウルトラマン80に、塚本は矢的先生の面影を見たのです。 塚本が矢的先生をウルトラマン80だと確信しているのは、そのような背景があるのです。

B第3話「泣くな、失恋怪獣」では、失恋した生徒の悲しみがマイナスエネルギーとなり、 硫酸怪獣ホーを呼び寄せます。この生徒が今回のエピソードにも登場した真一です。

この第3話では、猛が自分の失恋体験を真一に聞かせます。それは「好きだった子の欲しがっていたマンドリンを買うためにアルバイトに励んだが、その間に彼女は心変わりし、他の男性との交際を始めていた」というものでした。そして猛は「それでも僕は彼女を恨んではいない。僕は今でも彼女の幸せを祈っている」と語るのです。 前述のとおり、猛は教員免許を取得するために大学に通っていたと考えられます。

とすれば、猛が語ったこの体験は大学時代の出来事でしょうか?あまりにも人間らしい、主題歌に歌われた 「涙の味を知っている」ウルトラマン像がここでは提示されています。

ウルトラマン80の最終回「あっ!キリンも象も氷になった!!」では、 矢的猛がUGM隊員としての地球を去る姿が描かれました。

そして「思い出の先生」は、ウルトラマン80最終回と対を成す「教師編・最終回」として、 最高の回答を見せてくれたと思います。27年の時を経て実現した 「矢的先生と生徒たちの卒業式」を、僕は涙を流しながら見ていました。

何度も書いていることですが、「ウルトラマンメビウス」からは、 過去の作品に対するスタッフの敬意が強く感じられます。メビウスを見ながら、 これまで何度も「ウルトラファンで良かった」と思いました。

そして今回、こんな素晴らしいエピソードを見せてくれたことに心から感謝しています。 あらすじと解説を書きながらも涙ぐんでしまいましたよ。ええ。 本当は、今回のエピソードには解説なんか不要だと思います。実際、 どうまとめていいか分からないところを今回は無理やりまとめました。 少し荒い文章になっているここと思います。どうかご容赦のほど。

いよいよ終盤に向かう「ウルトラマンメビウス」ですが、期待を裏切らないシリーズに仕上がることを確信しています。ありがとう、そして頑張れ!ウルトラマンメビウス!!

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